全国海外子女教育研究協議会に期待する

文部省海外子女教育室長   佐 藤 國 雄

11号巻頭言(1982年2月1日発行)

 一九八一年は海外子女教育の振興にとって画期的な年であった。四月には文部省に海外子女教育の名を冠した組織が発足した.五月には海外に進出している代表的企業三六〇社が組繊している日本在外企業協会の海外子女教育問題研究委員会が海外派遣者の子女教育問題に関する提言を発表した。八月には北九州市で全国海外子女教育研究大会が福岡県教育委員会及び北九州市教育委員会共催のもとに一二〇名の参加者をえて開催された。いわば政府も財界も教育界も海外子女教育という共通の課題に熱心にとりくんでいく意気込みを感じさせた一年であった。新聞論調も全般的に好意的であった.

 海外子女教育の振興といえば,派遣教員として優秀な人材を得て御活躍いただくことが最重要であることは云うまでもありませんが,帰国後それぞれの学校で海外でえられた貴重な経験をいかし我が国の教育界に新風を吹きこんでいただくことも大切なことである。今年は先に述べた各方面での努力を背景として,来年の第一〇回大会にむけて全国海外子女教育研究協議会の活動に期待するところが大きい.

 第一に,研究協議会の会員はその大半の方々が全日制日本人学校や補習授業校で教えた経験をおもちであり,現地で学ぶ子どもたちの苦労を身をもって知っておられる。この経験という強い武器をもって帰国子女の適応教育の内容,方法等の改善ににつき帰国子女教育研究協力校の教員の方々と協力して努力してほしい。

 第二に,会員の方々には国際理解教育の推進にあたって中心的役割をはたしていただきたいことである。国際理解教育の重要性が叫ばれはじめて

から久しいが,その実践はなかなかむづかしい.海外の学校では小学校の低学年から英語や現地語,在留国の歴史や地理等の現地事情を教えている.しかし,この一種の教育には幾多の因難があって理想通りに進んでいないのが実情である。帰国教育はその渦中にあって暗中模索し,自分なりの実践をしてこられたわけであり,その経験を役立てない理由はない。大いに頁献していただきたいわけである。

 第三に,研究協議会の全国研究大会にはややもすれば帰国教師の同窓会的雰囲気がないわけではなかった。最近,海外子女教育に関心をもつ教員や一般の人々の参加が増えてきており,このことは大いに歓迎すべきであるが,自分たちが海外生活の経験がないだけに場違いな所にきているのではないかという感じを抱いていると思われる。研究協議会は先ず帰国教師の会であることは云うまでもないことであるが,将来派遣教員として活躍してみたいと思う教師を分け隔てなく受入れ,経験をわかちあってほしい。海外の学校には教員に知的な冒険を要求する問題が山積しているが,それがまた大変な魅力であることを伝えてほしいのである。また一般会員には海外子女教育の当面している諸問題について理解を深めていただく良い機会を提供してほしいのである。

 文部省は全国海外子女教育研究協議会に期待している。海外派遣の経験は多くの教員の世界観や人生観に大きな影響をあたえてきたが,これを個人の経験にとどめないで,国内の教育界の国際化,閉鎖性打破に役立ててほしい。