公立中学校における帰国子女教育の一例

東京都世田谷区立駒留中学校   林   和 明

3号巻頭言(1979年7月10日発行)

 48年度以来文部省の帰国子女教育研究協力校となり,研究組織や具体的な指導の展開について研究してきたが,本校の帰国子女教育研究委員会が中心となって討議を重ねた結果,つぎのような方針で研究することとした.

1,有能な社会人の育成を目指して,学校教育の中で国際感覚を育てる教育や海外から帰国した子女の学力等のギャップを埋めるための特別教育措置の必要性と緊急性が強く叫ばれている今はそれらの研究調査に基づく指導をしていくことが,社会・国家の要求に応えることになり,現代の教育の課題のひとつであると考える.

2,学校教育の中で,帰国子女の学力のギャップ 生活・言語等の不適応を解消する指導を積み重ねて,一刻も早く国内の教育に適応させる必要がある.

3,帰国子女が他の一般生徒の中で,公立中学校の教育推進の上に格別の負担や支障を及ばさないで1・2を達成するための指導の方策を求めていきたい。

4,帰国子女の実態に触れてみると,在 留した国め教育事情,地域社会の風俗 習慣,人情により,十人いれば十色の 様相を呈しているのが帰国子女ひとりひとりの実態である.さらに生徒の能力,性格からくる対応の仕方も実に千差万別であり,帰国子女として画一的な指導はほとんどできない状態である.以上の事からひとりひとりの生徒にそれぞれ適応した指導の研究にあたる。現状およぴ今後の展望として

(1) 帰国子女だけの特別学級を作らず普通学級に受け入れて,指導・研究・調査を進めてきている。この状態は公立中学校の現状から今後も続ける。

(2) このような研究をするにあたって,研究員が主体となることはある程度やむを得ないとしても,他の教職員のより積極的な協力を得て,たとえ学年初め,学期初めの極めて多忙な時の帰国子女の編入に際しても,学校としてより速やかに対応できるようによりいっそう態勢を整えたい。

5,帰国子女の個人理解を徹底すること

は,不適応解消に役立つばかりでなく一般生徒の個人観察指導の手がかりも得られるが,今後は指導による帰国子女の変容を明白にできるような方策を立て,指導記録の考察による次の段階の指導充実に役立てたい。

6,帰国子女と一般生徒との学級での交流を通して,相互理解深め互いに一個の人格として尊重し合う精神の高揚立場の相違の理解を助長するなど学級

経営にも一層の好影響を及ばさせたい。

7,帰国子女の進路決定は,極めて希望に満ちているが,このような実積を示すことにより,帰国子女教育及びその家族を安堵させ,よりいっそうの信頼を寄せられる学校を築く努力を全職員及び生徒で心がけたい。

8,本校の学区域外の帰国子女の受け入れは原則として困難である.本校の研究を参考にしていただいて,帰国子女もその学区域の学校に希望をもって編入されていくようになる事を念願する。帰国子女教育の中でも教育相談は,大切なものの一つである。校内での教育相談の他に研究協力校という事でいくつかの国から教育相談や質問状が飛びこんできます。 

 二,三例をあげてみますと

 ・ニューヨークのA君

1,本校は帰国子女の受け入れ校であるのか.

2,学区域は.

3,進学先の高校名は。

4,進学のためにどのような準備をすればよいのか。

5,転校のために持参する書類は。

6,学習面では特に準備することがあるのか。など

・ロスアンジェルスのB君

1,両親と別れて知人の家に中学一年生が帰国して大丈夫だろうか.

2,父親は賛成している.本人も剣道をしたい。

3,進学は特別なところは考えていないが公立中学校がよいのか,私立中学校がよいのか。

4,私立中学校だとするとどんなところがあるのだろうか。

5,アメリカで6年間の生活,日本の小学校の経験がないが心藍ないのだろうか。など

 本校の帰国子女は現在27名いますがそれぞれ学習に,クラブ活動に積極的に参加している。中でも2年間のアメリカ生活から中学1年の6月帰国したC君は,国語,社会,数学,理科,英語の五教科の成積についてみると1年生の1学期20位(学級42名中)であったのに,3学期未には4位まで上ってきました。クラブ活動の面でも,2年生の末には,国際クラブの部長として13名の部員をリードし文化祭,研究発表会を成功させることができた。このような活躍の陰には,本人がそれぞれの面で努力をしたのと家庭での協力があったからである.   (元 シドニー日本人学校教論)