期待に応えられる全海研に

                                                  会長 和賀 満男

57号巻頭言(1997年7月10日発行)

 本号から,紙面の装いを新たにした会報をお届けすることになりました。本研究協議会(以下,「全海研」と記します)も第二次組織改革を実施してから,約1年が経過しました。どのような組織や制度も,発足時には適したとして,やがては社会の変化に十分な対応ができない面が生じます。「不易流行」は常に問われるところです。新しさを求めて変化していくことこそが,時代を通じて変わらないというこの言葉の本質を改めて心に留める必要があると思います。全海研が限りない前進をはかっていく姿勢と受けとめてください。

 現在,学校教育においては,21世紀を展望し,さまざまな社会変化に対応できる「生きる力」を育むことが課題となっています。なかでも,国際化や情報化に対応する教育の充実が求められています。国際化の面では「海外・帰国・外国人子女教育,国際理解教育」が重視され,全国各地の教育現場で国際化の流れに沿った実践がなされてきています。また,情報化についても,世界的規模でのインターネットを利用したネットワークづくりに迫られ,とりわけ在外教育施設および各都道府県組織との情報交換が今後さらに進展することが予想されます。国際化や情報化が相互に関連し進展するなかで,国際理解教育の実践に対し従前から蓄積してきた情報と,全国的な人材ネットを有する全海研への期待はますます大きくなるのではないかと感じております。全海研は国境を越え,コミュニケーションをはかるインターネットへの加入も近々予定しています。また,これらの教育を実践する教師の資質向上をめざした研修への支援や助言,教育実践の質を高めるための情報提供をはかれるよう努力しているところです。さらに在外教育施設および各都道府県組織の研究活動に対しても要請に応じて連携しながら助言し,研究の推進に寄与できるよう組織の整備に努めているところです。

 全海研の事業のなかでも,全国大会の開催は大きな柱です。本年度の釧路大会から従前にも増し,内容面においても開催県との連携を深められるようにしていくことになりました。例をあげるならば,第3分科会(海外・帰国子女教育),第4分科会(外国人子女教育)は全海研本部が協力担当することになりました。今後の大会においても,共催関係がより深まるよう臨んでいきます。全国大会の開催を適して,開催地の都道府県組織の実践活動が深まりと拡がり

を持っことを期待しています。私たちは,日常の子どもの声の中にしばしば「内省」の横会を得ることがあります。北米の現地校に転入したAさんの,初めて登校したときの様子の作文を要約します。

 「友達に学校を案内してもらいました。たくさんの場所に連れていかれ,最後に校長室に入り校長先生に会いました。はじめはとても緊張していましたが,すぐにその気持ちはほぐれてきました。『コンニチハAサン,ココガアナタノスクールデス。ワタシハW・Bデス。ヨロシク』と,わたしのために,たどたどしくても日本語で話しかけてくれたのです。それは決して上手ではないし,フレーズだって長くはありません。しかし,この言葉は言い表せないはどの感動でした。こうしてわたしは,重要なことを学びました。正確な言葉でなければ,はっきりとした主旨はわからないかもしれません。しかし,本当に大切なのはそんなことではありません。何といっても『誠意』が必要なのです。・・・」

 Aさんは適応していく過程で,様々な経験をするものと思います。そのなかには,「いい思い」ばかりでなく,「いやな思い」もあることが推測されます。いやな思いをしたときも,きっとこの大きな感動の経験が支えになるのではないかと考えられます。「誠意」こそが柏手に感動を与える根本であることを,Aさんは感じとっています。逆に言えば,どんなに言葉を飾っても誠意に裏打ちされていないのでは何の感動も与えません。したがって教育力にならないのだと省みました。会員として,教師として,私たち自身の意識改革のないところには,全海研の組織改革や新しい教育論・授業論も子どもに反映させるべき教育力にはなり得ません。

 ひとりひとりの会員が充実感のある実践を展開し,相互に啓発し合えることこそ最も肝要なことではないでしょうか。誠実さと情熱,そして新しい視野を持って共に教育活動に専念していく仲間として,全海研の志を高く掲げたいと思います。新世紀に向けた教育の在り方が問われている今,会員の皆様の協力を得て,新しい時代に生きる全海研の役割を果たしていきたいと考えております。