「不適応・問題」行動への「関わり」考

                                                 アクセス心理教育研究所長  原    裕 視 (現・目白大教授)

62号巻頭言(1999年3月20日発行)

 私は日頃,臨床・コミュニティ心理学と異文化間教育の領域で仕事をしていて,心理臨床の仕事と教育・研修などが主な仕事です。その中で,公立の小・中学校にスクールカウンセラーやアドバイザリースタッフとしても出入りしています。これらの活動の中で見えてきた子どもの特徴や,子どもへのかかわり方などを提示してみようと思います。

 最近の子どもたちの問題行動,不適応状態として,たとえば幼稚園・保育園の段階では,「ジコチュウ(自己中心)児」の増加,言動の粗暴化,何かあるとすぐパニック状態,他の子とうまくコミュニケーションがとれないなどが指摘されています。これが小学生になると学級崩壊,乱暴行為,いじめ,不登校として現れ,中学生ではいじめや不登校(引きこもり,怠学)の増加,校内暴力や非行,援助交際などが加わります。さらに高校生になると高い中退率が問題に加わります。

 このような種々の問題を示す子どもには,心理臨床の観点から見ると,かなり共通する特徴があります。キーワードは「傷つき易さと可塑性の無さ」及び「引きこもりと衝動発散行動の二分化」とでも言えるでしょう。もう少し具体的に言うと,ひとつは,「対人関係の未熟性」が目立つと言うことです。そしてこの特徴に関連しては,1.自分のことを好きでない,自尊心が弱く,自己評価が低い 2.深い関係は持てない,持ちたくない,しかし一人ではいられない 3.他の人との関係を調整する「能力」,調整しようという「意欲」に乏しい 4.耐える力,衝動をコントロールする力,自己調整する力が弱いなどの指摘ができます。5.結局,傷つくと自分の殻にますます閉じこもるか,あいてを直接激しく攻撃するのどちらかの行動になってしまいます。

 もう一つの大きな特徴は,「秩序感覚あるいは規範意識そのもの」が出来上がっていないらしいということです。つまり,1.自分の内面に「基準」とか「原則」を身につけていない 2.このことは自己や他者の理解,評価,判断のための

「手がかり」を持てないことに繋がり,また3.自分をコントロールし,他人との関係をコントロールするための「手がかり」や「枠組み」を自分の中に持っていないことになります。4.そこで自分で考え,意志決定して行動することが極めて難しくなり 5.結局二つの方向でしか動けなくなります。1つは状況(場)依存型行動で,一緒にいる仲間,メンバー次第でどうにでも動いてしまう,何でもやってしまう。2つめは欲求依存型行動で,自分の内側からでて来る欲求そのものが唯一の基準となり,それを即満たそうとする行動をとることになります。この衝動発散・欲求充足的行動が阻害されると,やはりすごく傷つくか相手を攻撃するというパターンになってしまうのです。

 私たちは,問題・不適応行動に直面すると,その行動そのものを直したり,正そうとして,どうしたらよいかと対策を考えます。とりわけ「教え」「指導する」ことに慣れている学校の先生方には,この傾向が強いと言えます。ところがこのような行動をターゲットにすると効果がないことが多いのです。なぜならば「問題行動,精神的・身体的症状」はそれ自体がその子の問題であるよりも,その子に「心の課題」があることの表現であり,しかもその課題に取り組もうとして苦しんでいる「姿」なのです。症状・行動はメッセージなのですから,そこに注目することにより,真の課題すなわちその子が取り組んでいる心の課題を見いだすことが可能なのです。そして,この課題を解決するためには,その子にとって何が必要か,どのような援助が必要かを懸命に考え,理解すべきです。最後は,どのような援助を誰が提供できるのかを,その子をとりまくコミュニティの中から可能な限り見つけだすということになります。一人ですべて引き受ける必要はないのですから。

 このような発想と動き方は,国際理解教育や異文化間教育に興味があり,実践している先生方には馴染みやすく,したがって力を発揮しやすいのではないかと私は考えていますが,いかがでしょうか。

 

 

 

 

 

 

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