1,国際理解教育をどのようにとらえるか

 国際理解教育をどのようにとらえるかが、まずポイントとなります。

ローマ日本人学校では数学科における国際理解教育を次のようにとらえています。

 「数理の簡潔さや国際統一性・規則性に関心を持ち、理解することは、人間の歴史上の文化の発達を理解することになる。また、物事を数理的にとらえ、論理的に筋道を立てて思考し、処理することによって、真理を追及する態度を育て、広く世界や人間の文化・科学の発達に関わることができるようにする。

年間指導計画作成に当たって、具体的には次の3点に注意して作成にあたった。

年間指導計画作成

(ア) 論理的思考能力を育成するために、課題学習的内容を単元ご

   とにとりいれた。

(イ) 異文化理解を進めるために、題材でイタリアの教科書や諸外

   国で取り扱っている内容を取り入れた。それを比較することに

   よって、数学的な理解も深められるようにした。

 

   数学的な歴史的事実にも目を向けさせるために、歴史的定理

  等を扱うときに、いろいろな方法で証明されているときは、それら

  を考えさせることによって異文化にふれさせたいと考える。」(ロー

  マ日本人学校研究紀要1997)

   パリ日本人学校では、フランスの数学の話題だけでなく、さらに

  範囲を広げて数学のエピソードを取り上げています。

   また、数学の授業で生徒同士の関わりあいを増やすことで、他

  者を尊重する態度の育成も国際理解教育の一環としてとらえて

  います。(パリ日本人学校研究紀要1998)

 

   その際のアプローチとして、韓国日本人学校から次のようなア

  プローチが提案されています。

アプローチとして

ア.学習問題を韓国生活に密着したものにする方法。

イ.問題解決の方法や手だてを韓国的なものまたは世界的な方法

  に近づける方法。

ウ.まとめの段階や発展として、韓国や世界または歴史的なものに

  結びつける方法。

   などが考えられる。例を挙げると、

 

 「ア」では、問題を買い物場面にしてウォンの価値をとらえさせる。

 「イ」では、2学年での九九指導で、世界のかけ算と日本のかけ算

 の相違点から、かけ算の仕組みを理解させる。

 「ウ」では、面積や体積、立方体、直方体などの指導で、韓国にあ

 る同じ形や面積の建物を探し図形の特徴をとらえさせるなどが挙

 げられよう。」(ソウル日本人学枚研究紀要p7・阿部誠・1996)

次にいくつかの国際理解教育の指導事例をあげてみます。
現地の文物

2,現地の文物を使って

 A、プラハでの実践

 「三角形の合同条件を用い、オプラハ内の教会の2本の尖塔が左右対称かどうか調べる。これを4つの写真から予想を立てさせるという実践がある。」(プラハ日本人学校研究紀要・1996)

 

 B、ニューヨークでの実践

 「横の長さが24.7cmの星条旗の形を正確に書くにはどうすればいいだろうか。比の性質を活用して、問題を解決し、アメリカに関する理解を深める。」(ニューヨーク日本人学校研究紀要・1994)

現地の通貨

3,現地の通貨を使って

 韓国日本人学校では、「割合と百分率」の単元で次のような指導を行いました。

 「目標:円とウォンの関係が割合の考えになっていることに気づき、割合の公式を理解することができる。

  展開

 @1000円札5枚を1000ウォン札40枚に両替した日と、1000円札8枚を1000ウォン札60枚

   に両替した日とではどちらが得だったでしょうか。

 A1000円札1枚あたり1000ウォン札何枚か。

 B1000ウォン札1枚あたり1000円札何枚か。

 C円をもとにしてウォンを求める。」(ソウル日本人学枚研究紀要p7・阿部誠・1996)

 

 現地の通貨を使っての実践例はたくさんあります。しかし、同時に難しさもあるようです。たとえばひとつの通貨単位ならば「円」と置きかえればいいのですが、ポーランドのワルシャワ日本人学校からは、通貨単位がズウォティ、と補助単位のグロッシェという2通りあるので難しいという報告もありました。これは補助通貨をもつすべての国での悩みといえるでしょう。

現地の教科書

4,現地の教科書を使って

 シンガポールでは、ただ単に現地の教科書を使うことは興味関心を高めるだけでなく、「問題解決を通して問題の数理に触れることにより相違点や類似点を感じ、さらに興味・関心(活用しようとする態度)が深まると」という仮説を立てました。

 バンコク日本人学校でも、現地の教科書を使っていますが、三平方の定理を証明するために、いくつかの方法を考えた上でさらにタイの教科書の証明を図から考えるという授業をおこなっています。それぞれの国の教科書によって、証明方法が異なるところが興味深いですね。(バンコク日本人学校研究紀要・1994)

 アスンシオン日本人学校では、小学校5年生の分数の問題を現地の教科書を使って行いました。ここでは違いよりもむしろ共通性に気づかせ、数字や計算記号や計算式が世界共通であることに気づかせることにねらいを置いています。(アスンシオン日本人学校研究紀要・1997)

 

現地調査

5,グラフや統計などを現地調査の手だてとして

  現地調査の手だてとして

パース日本人学校では、同じ敷地内にある現地の公立校SCARBOROUGH PRIMARY SCHOOL(以後スカポロ小)と交流活動等を行っています。3年の算数の授業で、日本人学校と現地校の「みんなにいろいろ聞いてみたいこと」のアンケートを資料として活用し、「表とグラフ」を指導したという報告がありました。

 現地校との併設という利点を生かし、お互いの資料をもとにしたグラフを授業で活用することで次のような成果がありました。

 「日本人学校の子どもたちとスカポロ小のアンケートを用いることによって、自分たちの考えとスカポロ小の子どもたちの考えが似ていることや違いに気づくことになる。表やグラフは現地の学校でもいろいろ学習しており、表やグラフのいろいろな表現方法を学んだり、似ている考え方や違いがあることに気づいたりして、国際性を豊かにする基本を身につけることができると考えた。」(パース日本人学校・山賀信幸・1996)

九九の違い

6,九九の違い

 九九の計算も国によって大きく異なります。これも国際理解教育の素材として使えますのでいくつかを紹介します。

 @カナダ、ニュージーランドの九九

  times tableと呼ばれる。1〜12×12までを学習する。Oneby(×)Oneis(=)One(1=1)、

  OnebyTwoisTwo(2=2)・・・のように○○by□□is△△(○○X□□=△△)の形でか

  け算を読む。覚え方は、日本語のように色々な読みがないため、そのまま暗記するよう

  である。

 A台湾の九九

  九九乗法と呼ばれる。1〜9までを学習する。

  1chen(×)1denyu(=)1(1×1=1)、1chen(×)2denyu(=)2(1×2=2)・・・のように

  ○○chen□□denyu△△(○○X□□=△△)の形でかけ算を読む。

  (引用http://www.newcanyon.com/oct/world99)

@かけ算表

 古くから掛け算表times tableと呼ばれるものがあります。ただし、9で終わらずに12×12まであるものあり、それをPythagora‘stableというようです。その理由は、長さの単位がインチやフィートという12進法だからだそうです。

また、9の段を指を使って計算する方法も紹介されています。

  Remembering 9's

What's 9 x 7 ? Use the 9-method! Hold out all 10 fingers、and lower the 7th finger. There are 6 fingers to the left and 3 fingers on the right.

手が逆ですが、上の図は8=72、下の図は9=81のやり方です。