◆生物教材をどのようにするか。
 海外での理科の授業を、もっとも扱いにくくする大きな要因の一つが生物教材の準備です。生物教材は、準備がむずかしく、しかも仮に準備できたとしてもそれをうまく育てたり、成長させるのはさらに困難をきわめます。
【課題】  これらの生物教材を使って授業を行うときに、予想される問題や困難には、どんなものがあるでしょうか。予想してみてください。そうした困難に対してあなたならどのように対処しますか。
  【アドバイス】

植物教材につきまとう困難とは

 @ 教材になる植物そのものが入手できない。

   あるいは現地にない、生育していない。

   小学校では、サクラ・オシロイバナ・チューリップの球根・ヘチマなどの種子が入

   手できないという報告がありました。また、中学校ではマツ・イチョウ・オオカナダモ・シダ植物

   ・コケ類・ホウセンカなどが見つからない地域があります。

   対策としては、去年のとれた種子を残しておく。日本から何らかの方法で輸入する。そして現

   地の代替品を探すと言うことそうです。

 A 植物教材を入手できても、現地の気候では育たない、あるいは季節変化がない。

    たとえば、生育に苦労しているジャガイモについてはさまざまな報告があります。

   「ジャガイモは、比較的涼しい東北地方や北海道でたくさん作られている。ジャガイモの茎葉

   伸長適温は、19℃〜21℃、生育適温限界は23℃程度と言われている。涼しいどころか、1

   年の日中平均気温が27℃のシンガポールでは、ジャガイモの栽培は適さない、無理だろう

   と判断されていた。露地栽培については、『まあ、植えるだけは植えてみよう』という半分あきら

   めの気持ちで取り組んでいたようである。東南アジアでは発芽しても種イモが腐ってしまう。し

   かし、大きい箱に植えて、おおいをする方法で栽培し、水やりをすることで、種イモより大きな

   収量を得ることができた。地温を下げるというより、(もちろん下げるにこしたことはないが)、

   土の多湿を防ぎ、種イモを腐らせないようにすることが大切ではないかと考える。栽培期間

   中の地温は平均27℃であり、期待したほど下げることはできなかった。しかし、なぜ新しいイ

   モができたのか。それは土に含まれる水分を水やりという行為で適度に保てたことが、新し

   いイモができた最大の原因ではなかったかと考えている。」(シンガポール日本人学校・菊地

   伸・1987

    たとえば、ジャガイモは中近東では、発芽しなかったり、台北では、ジャガイモの代わりにサ

   ツマイモを使ったりしています。カイロ日本人学校では、日本と同じ時期に植えつけると枯れ

   死する場合が多いので、8月植え込み、11月収穫が適切という報告があります。

    また、欧州ではヘチマが寒冷気候のため、育てるのがむずかしいようです。ビニールハウ

   スを作ったり、教室の中で育てたり、キュウリで代用するなど工夫をしています。

一口メモ≪じゃがいも≫

  ジャガイモは、収穫後2〜4ヶ月は休眠し、それを過ぎると先端(くぼみのこと)から次々と発芽する。芽が1〜2出たものをたねいもとして植え付けると、大きなジャガイモを収穫できる。植付けから出芽までは、積算温度で300℃必要なので、平均10℃の季節に植え付けると、出芽まで30日かかる。

  伸びた地下茎はやがて伸長を止め、先端を肥大化させて塊茎(いも)を作り始める。この時期には、地上の茎の長さは30cm程度で、完全に展開した複葉が7〜8枚見られる。塊茎形成は、30℃以上では起こらない。適温は約20℃と言われている。日本では、土寄せ(茎に土をもってかぶせること)を行うことで、夏季の暑さからいもを守る。

    

 一口メモ≪さつまいも≫

さつまいもは、高温・多湿・多照に適した作物で、たねいもからの萌芽には30℃以上の地温が必要とされる。塊根の形成は、地温が23℃前後、膨軟な土壌でカリ肥料が多いと促進される。気温の高い地域では、じゃがいものかわりにさつまいもを植える学校もある。

            (参考資料「作物入門」角田公正ほか1998実教出版株式会社)

B 現地の植物の代替品があっても、学名や和名がわからない。代替の植物名を特定するの

  は、むずかしい作業です。しかし、適当な植物が見つかれば、それはそれで授業でとても助か

  る教材になります。名前がわからないが、ちょうどよい植物が見つかった日本人学校もありま

  す。保護者の中には、JICAから農業などの開発援助で来られている方もいられるので、そうし

  た人の知恵を借りることもできます。次のように種類も明らかな代替植物を利用している学校

  もあります。

      ヘチマ ⇒ キュウリ で代用(マドリッド日本人学校)

      イチョウ⇒ カエデ  で代用(ニューヨーク日本人学校)

 

 C 季節が日本とあわないので、単元の時期を入れ替えたいが・・・・。

  季節が日本と逆の場合など、どうしても教科書どおりに進まない地域があります。「ならば」とい

  って、簡単に単元入れ替えをしてしまうと、転出入の多い日本人学校のことですから子どもが

  他校で困ることがあります。

   そのために、とりあえずビデオ教材で授業を進めておく学校もありますが、やむをえないと思

  います。ビデオ教材が、見やすく整理整頓されて、内容も新しく来た人がわかりやすいように一

  覧などを作成しておく必要があります。

◆動物教材につきまとう困難とは

@ 動物教材が現地に見つからない。

  小学校で一番なくて困る動物が、メダカとモンシロチョウです。メダカには多くの種類があり、温

  帯・熱帯に広く繁殖していますが、熱帯魚としてグッピーなど胎生の魚も広く使われています。

  (ほとんど世界の日本人学校が、グッピーで代替している。)リヤド日本人学校では、ティラピア

  の稚魚を使うなどしており、代替魚をさがしたほうが早いようです。日本からの日本種のメダカ

  を現地へ持ち込んだ場合、やはり繁殖や養育に失敗することがほとんどです。

   モンシロチョウは、似たような蝶のいる場合があるのですが、まったく見つからない地域もあ

  ります。(乾燥地帯)

   代替種がみつからない場合、ほとんどの学校がビデオ教材で提示しています。しかし、パリ

  日本人学校では蝶博物館を利用するなど、現地にある教育施設を開発している例もありま

  す。

 A 動物教材が現地にはいるが、採集・生育がままならない。

   東南アジアでは、蛇やさそりなどの安全上の問題から近くの林や森での採集ができません。

   マドリッドでは虫や草木を勝手に取ってはいけないという法律(慣習)があり、パナマ日本人

   学校では蚊の発生を抑えるために水をためたままにしてはいけないために、水中の小動物

   や微生物を身近で採取できなかったりします。

 一口メモ≪メダカ≫

「日本のメダカは1種類のみですが、世界に目を向けると、メダカの仲間は800

  種類を超え、現在でも毎年のように新種が見つかっています。その分布域は赤道を中心とした

  熱帯から温帯にかけてと広く、生息場所も雨季の時だけにできる水たまりのようなところから、

  標高4500メートルの高地の湖、また、河口近くの海水の入り混じるようなところと変化に富ん

  でいます。中でもグッピーやソードテールなど観賞用の熱帯魚としてよく知られた種類は、古く

  から世界中の愛好家を魅了してきました。繁殖の方法もさまざまで、卵生のほかに卵胎生のも

  のや、中には哺乳類のように、へその緒を通じて母親から栄養をもらう珍しい胎生のものもい

  ます。これらの不思議な繁殖生態や美しい色や形などは、それぞれの種類が生息する多様な

  環境に適応するために獲得していったものなのです。」(「熱帯メダカ族百科」和泉克雄、1998

  東京書店)

メダカの繁殖の方法
  次のホームページ(http://www.medaka.to)から、情報を得ることもできます。