「カタルーニャの伝説」
El Pont Diable(悪魔の橋)
                   神郷町立新郷小学校
                   教諭  元長 重人
                   
 今から2000年以上も昔のお話です。
 マルトレイという町から大きな川をはさんで向こう岸の近くの小屋に,一人の娘とおばあさんが住んでおりました。
 娘は町に用事があって出かけるときは,長いスカートの裾を腰までたくし上げて川を渡っていかなければなりませんでした。
 ある夕方,突然娘の目の前に悪魔が現れて,こう言いました。
「わしが,この川に一晩で橋を架けてやろう。その代わりに, この橋を一番先に渡ったものの魂をもらうぞ。」
 娘は考えました。町の人々は自分たちの岸の方へ用事があることはまずないだろう。だから何も迷惑をかけることはないだろう・・・と。娘は,「はい。」と答えました。
 悪魔はどこからこんなにたくさん大きな石を運んできたのでしょう。次々に石を積んで橋を造り始めました。しばらくして娘が橋を見に行くと,すでに半分以上できあがっておりました。娘は恐ろしくなって悪魔との約束をおばあさんに話しました。おばあさんは,
「安心をし。私にいい考えがあるよ。」
と,言いました。そして,娘ににわとりを1羽抱いてくるように伝えました。
 橋はもうほとんどできあがって,あと1つ石を積めばよいというとき,おばあさんは娘の抱いてきたにわとりを両手でつかむと,橋の方へ力一杯投げました。にわとりはびっくりして,大きく羽を広げ,バタバタと橋に降りたかと思うと,いっきに渡り始めました。悪魔はにわとりの魂をあっという間に吸い取り,持っていた最後の石を投げ捨て,どこかへ消えてしまいました。
 それから,この橋は「悪魔の橋」と呼ばれるようになったそうです。
 
               出典: [Coneixement del medi social i cultural 3 Cicle mitja 1r]
                               Grup Promotor Santillana 
 
 スペインには古代ローマ遺跡が数多く残っています。私が赴任していたバルセロナにも水道橋や城壁のあとが数多く残っています。
 その中で「悪魔の橋」と呼ばれるものが私が知っているだけで,カタルーニャ州(バルセロナを中心とした地方)に3つありました。はじめは,バルセロナから80km程南に行ったところにある街タラゴナの水道橋(スペインで2番目に大きい)でした。しかし,バルセロナに更に近い街マルトレイという小さな街にも,さらにバルセロナから北に70km行ったところにある街ビックの近郊にもありました。
 話によると,全てが悪魔によって建てられたものであり,ここに紹介したように最初に通ったものは,にわとり,羊や猫などの動物でした。悪魔は人間の魂を得られると思ったのでしょう。
 なぜこのような逸話があるのかわかりませんが,悪魔に頼らないとできないくらい大かがりな工事だったことにはまちがいありません。
 この話は,現地の小学校3年生の社会科の教科書に載っていました。