「シンガポールでの収穫」            

                               総社市立総社小学校

                                教諭 北川 和美

 

 3年間で一番大きな収穫は?と言われたら,つきなみですが「出会い」でしょうか。毎年10人を超える派遣者で構成されるシンガポール日本人学校(クレメンティー校)には,豊かな個性と教育への情熱にあふれる同僚・先輩がたくさんいました。(個性の強すぎる人もいた!)派遣期間中はまさに変革期であり,総合的な学習の開発・実践、情報教育の導入と展開,社会科副読本全面改訂,そして教育研究活動など常時何かに取り組む必要がありました。その中で議論を重ね,協同して一つの成果を出すことの難しさや楽しさを体感できたわけです。また学校現場を見つめる保護者の目の鋭さと厳しさに説明責任の時代の到来を感じ,一方で総合学習の講師,読み聞かせや図書館整理,校外学習の引率などのボランティア層の豊かさと確かさに学校開放・地域人材活用の有効性を知ることもできました。この他にも日本人会や近所付き合いを通して,日本では接する機会の少ない方々とも話すこともあり,少なからず視野を広げる刺激となったように思います。すべて人との出会いのおかげです。

 学校外でも三大民族が共存する社会で生活できたことは貴重な経験でした。肌の色も,考え方も,生活習慣も異なった人間が,それぞれの違いを認めながら共生する。文字にすると簡単だけれど,そのために政府と,国民一人一人が様々な努力と工夫をしていました。挙げればきりがないのですが,特に印象に残っていることは「シングリッシュ」(シンガポール人の話すイングリッシュという意味)と「笑顔」。シンガポール人は中国系,マレー系,インド系がそれぞれ言語を持っています。そのため共通語として存在する英語は,なまりのある独特のものですが,コミュニケーションツールとしての役割は十分果たしています。日本人の英語下手は当地でも有名でしたが,それでも耳を傾け理解してくれようとする姿に感謝したことは,一度や二度ではありません。

 そして彼らの多くが素敵な笑顔とともに語りかける言葉が「ネバー・マインド」。「あ,それ持ってくるのを忘れたんだけど・・」「ネバー・マインド」。「何だよ,約束の時間を2時間もオーバーしてるぞ」「ネバー・マインド」。「先生,あっちのクラスではお菓子をもらってる,ずるい〜」「ネバー・マインド」。相手を安心させたり,時には自分の失敗をごまかしたりする時に,愛用するのです。きっと「違いを認め合う」という行為の中に「許し合う」という側面があるのでしょう。「みんな失敗(違い)はあるさ,君の失敗を許すよ。でもぼくだって失敗するからね!いいだろ?!」そんなラフな考え方は,均質を好み,襟を正す日本人にはなかなかできない発想かも知れません。

 

長いようで短かった3年間,最近時々「ネバー・マインド」とつぶやく自分がいることに気付きました。よく言えば「おおらかに」,悪く言えば「ルーズに」なってしまったようです。どちらが良いとか悪いとか,速いとか遅いとかも大切にするけれど,まず,あるがままを受け入れ,それを最大限生かせれる人間になれたらいいなと思うこのごろです。                                          学校交流・違いをすぐに受け入れる子ども達