「 驚 い た こ と 二 つ 」

            チューリッヒ日本人学校 教諭  三 井  亘

 赴任して,驚いたことはたくさんありますが,その内の2例を紹介します。       
 まず一つは,大人が子どもを叱るということです。当たり前のことのようですが,見ず知らずの子どもでも,悪い事をしていれば声をかけ,きちんと叱るのです。近くに親がいれば,親も叱られます。日本の昔で言う「雷おやじ」の存在がまだまだあるのです。
 私たちの住んだチューリッヒ州は,ドイツ国境に近く,ゲルマン系の人々が多いため「自分に厳しく,他人にも厳しい。」という感じを受けました。 【サマーキャンプ:アレッチ氷河】
 我が家族は,まず「音」で迷惑をかけました。
 夜10時以降,シャワーや洗濯,掃除など音が響く作業はいっさいだめなのです。子どもが騒ぐのはもちろんです。「夜は静かに!」当たり前の事なのですが,赴任当時の私たちにはとても窮屈でした。「静かに」とお互いに声をかけることがしばらく続きました。また,隣のおばあちゃんにも注意を受けました。戸や引出しの出し入れの仕方です。「戸は閉まるまで,のぶをきちんと持って静かに閉める。」「引出しは,しまう時は最後まで手でもって静かに押し込む。」確かに当たり前の事ですが,私たちにはできておらず,反省しきりでした。自動車でも乗り降りの時は,現地の方は必ず扉に手を添え,最後までていねいに押し込んでいます。ちょっとしたマナーですが,私たち家族もさっそく見習いました。
 さて,もう一つ驚かされた事は,教育に対する考え方です。
 現地の学校(義務教育)では,担任と保護者と子どもが相談の上で,子どもの能力に応じて進級,留年,飛び級を決めています。それは,スイスでは進級することが全てとは考えておらず,その子どもの精神年齢や学力,体力的なことなどから,将来的に本当によい環境は何なのかをよく考え,判断されているようです。我が子が通っていた現地の幼稚園でも,留年している園児がいました。それに関わるカウンセラーの機関も発達していると聞きます。赴任校と現地校との交流学習において,小学校5年生でもあきらかに中学生という子どもが何人かいて,私自身驚いたこともあります。しかし,全体の雰囲気は,年齢が違うからといってもクラスの中にうまくとけ込み,当たり前のように一緒に活動しているように見えました。
子どもの発達のペースに合わせ,子どもの「個」を大切にする考え方が自然にできているように感じまし
た。
 また,現地校では運動会や文化祭といった全体での学校行事がありません。始業式,終業式もなく,入学式のようなものもないと聞きます。
 スイス,日本の教育に対する考え方の違いを肌で感じた3年間でした。
  貴重な体験になりました。

【現地校との交流学習:凧作り】