国際社会に生きる人材育成のために

文部科学省・初等中等教育局・国際教育課長 山脇 良雄

76号巻頭言(2004年07月15日発行)

 今日、経済社会の様々な面でグローバル化が急速に進展しています。人の流れ、物の流れにとどまらず、情報、資本などの国境を越えた移動が活発化しています。地球環境問題をはじめ、人類が直面する地球的規模の諸問題の解決も国際社会に求められています。

 このような世界情勢は今後もより深まりを見せるものと考えられ、これからの国際社会を生きる人材を育成していくことは極めて重要な課題です。国を超えて相互に理解し合うことの出来る人材の育成が求められます。

 このためには、第1に、異なる文化を理解するために資質と力を養うことが必要です。「違い」を「違い」として認識し、文化の多様性を知ること、その上で相互に「共通するもの」を見つけることが大切だと思います。互いの歴史、伝統、価値観を尊重する心はこのような相互の理解のうえに成り立つものです。

 また、その前提として、自国の社会、歴史や文化に対する理解が必要です。自分自身の考え方、主張が不明確なままでは、国際社会のなかで相互の理解を深めることは出来ません。自分自身の座標軸をきっちりと持つことが第2の重要なポイントです。

 3点目は、自分の考え方や主張を相手に伝達する能力を備えることです。そのために外国語によるコミュニケーションを図る能力を身につけることが不可欠です。世界的な共通語となっている英語をはじめとして、外国語によるコミュニケーション能力の育成が大きな課題であると思います。  このような国際社会に生きる人材の育成のためには、様々な人々の協力と多くの組織・機関の連携による取り組みが必要です。学校における教育が中心的な役割を果たすと思いますが、学校だけではそう簡単に進められるものではありません。国際交流や国際理解の活動に取り組もうとしても、実際にこれを行うためには、経験のある指導者による指導・支援がないとうまく進まないことでしょう。また、実践経験に基づくノウハウが必要な時もあります。

 海外の日本人学校や補習授業校で教育に実際に携わった教員の方々は、この意味で非常に貴重な経験をお持ちです。海外での教育実践の経験を国内における活動に活かすために、多くの活動を展開されている全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会

 

は、今後も重要な役割を果たしていただく中核にあると思います。海外での教育では、ご苦労や困難なことが多くあったと思いますが、それをプラスにして、先生方が自発的に独自の発想で様々な研究や実践活動を行われていることを大変心強く感じています。

 現在、海外にいる義務教育段階の児童生徒数は約5万2千人となっており、平成3年に5万人を突破して以来、わずかながら増加傾向にあります。現在、82校の日本人学校、41校の補習授業校に政府から教員を派遣し、その数は1300名を超えています。現地校、国際学校志向の高まりや、児童の低年齢化と滞在期間の長期化傾向など、海外の子どもたちへの教育をめぐる環境も変化してきています。これらに対応した今後の海外子女教育に対する支援のあり方も検討すべき課題です。

 一方、国内では、中南米からの日系人労働者の増加等に伴って、公立の小・中・高等学校等に在籍する日本語指導が必要な外国人児童生徒は10年前と比べて約1.8倍に増加し、人数にして約1万9千人となっています。日本語の指導の実施や母語の解る指導員による教育指導などの支援策が講じられていますが、地域や学校においてはまだ課題があります。外国人の子どもたちとの交流を通じて、我が国の学校における国際理解教育を進めていくことも重要です。

 外国語教育の分野では、英語教育の改善の目標や具体的施策を示した「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」を作成して、英語教育の改善に取りくんでいます。小学校段階でも、国際理解教育の一環として英語活動に取り組む学校が増加しています。

 国際教育の実践の場ではこのように個別分野ごとには推進されてきていますが、海外教育の経験のある先生方などの人材の活用や実践事例・アプローチの共有化などは必ずしも十分とは言えません。今後は、このような国際教育の人材や組織、施策間の連携を強化し、相乗効果を生むような方策についても検討していきたいと考えています。

 最後に、会のご発展と会員の方々の益々のご活躍を祈念しまして、巻頭言とさせていただきます。