新年あけましておめでとうございます。

       文部科学省・国際教育課長 大森 摂生

86号巻頭言(2008年1月29日発行)
 全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会の会員の皆様におかれましては、世界各地の日本人学校や補習授業校の現場で御教鞭を取られた経験を生かして、我が国における国際教育の各分野において、中核的な役割を果たしていただいております。この場をお借りして、厚く御礼を申し上げます。

 私自身も、海外勤務の際には、子どもたちが日本人学校(正確にいえば日本人学校の幼稚部)のお世話になりました。勤務先は治安が必ずしも良い土地柄ではなく、誘拐など頻繁に発生する事情もあったため、派遣教員の方々におかれては、日本では考えられないようなご苦労もあったかと存じます。そのおかげで、帰国した子供たちは、多くの得難い体験を持ち帰り、帰国後の生活に生かしております。

さて、最近の海外子女教育の状況を御紹介しますと、現在、約1,300人の派遣教員の方々が、世界に84校の日本人学校と43校の補習授業校で教鞭を取っておられます。海外に学ぶ義務教育年齢の児童生徒数は、平成19年4月現在で59,109人と微増傾向にありますが、帰国児童生徒の数は、10,307人(平成18年度間)と、逆に微減傾向にあり、日本人の海外滞在の長期化傾向が現れています。
 特筆すべき傾向としては、現地校(又はインター校)のみで学習している(換言すれば日本人学校にも補習授業校にも通っていない)児童生徒は、全体の4割にのぼり、この割合は年々増加する傾向にあります。
 また、児童生徒の地域的なちらばりも大きく変化しています。伸びが著しいのは、中国を中心とするアジアで、平成の時代に入ってからほぼ右肩上がりで増加し、平成17年に初めて北米地域を抜き、その差は広がる傾向にあります。他方で、中南米地域は漸減傾向が続いています。

 一方、国内の帰国・外国人児童生徒教育を見ると、日本人の帰国児童生徒教育については、公立校・私立校を問わず、積極的な受け入れを行う学校も増えています。他方、外国人児童生徒については、中南米や中国からの、いわゆるニューカマー外国人の在留が増加しており、こうした外国人の子どもたちの多くが日本の公立小中学校等において学んでいます。こうした外国人の子どもをどのように日本の教育現場に円滑に受け入れ、日本社会に適応させていくかがますます重要な問題となっています。

 日本という比較的同質的な社会に住む我々にとって、海外に暮らすということは、新たな知見や視野が得られるのみならず、そこで得られた異文化経験を試金石として、これまでの自らの考え方や生き方を見直す絶好の機会であると思います。全海研の先生方は、こうした貴重な体験を積んでこられた上で、我が国における様々な国際教育の諸課題に指導的な役割を果たしておられます。文部科学省としても、引き続き全海研との連携を通じて、こうした問題の取り組みに努めて参りたいと考えております。

 最後に、この場をお借りして、お願いとお知らせがあります。 
 ひとつは、近年、在外教育施設への派遣を希望する教員の数が少なくなる傾向にあることから、実際に海外で貴重な経験を積んでこられ、帰国後も国内の学校で活躍されている全海研の先生方には、皆さんが経験された派遣教員としての長期研修について、その意義を広くお伝えいただくことを期待しています。意欲のある優秀な人材が1人でも多く在外教育施設での教育に興味・関心をもっていただけるよう、引き続きご協力をお願いいたします。
 もうひとつは、全海研のホームページにも触れられているように、今年度から、「シニア派遣制度」という新たな派遣制度を発足させました。これは、新たな制度であり、現時点では試験的に限られた人数で開始した事業ではありますが、55歳から65歳までの在外派遣を経験された先生方を、これまでの海外における教育経験や、さらに帰国後の管理職としての豊富な体験や知識等を活かしていただきたいとの考えから、当面、補習授業校を念頭に派遣しようとするものです。昨年11月には、シニア派遣第2期生となる方々の選考のための面接を行い、その結果については既に通知を行ったところです。私も、この面接に参加させていただきましたが、応募者の方々から、異口同音に、海外における児童生徒教育へのつきることのない思いを伺い、意を強くした次第です。選考という性格上、すべての応募者の方々の期待に応えることができなかったのは残念でしたが、在外派遣を終えられて、未だ海外子女教育への夢や意欲を抱いておられる先生方が奮って応募されることを期待しております。